「やっぱり女性は、だらしない草食男に辟易してるんでしょ」と頷きながら、「俺の出番か?」とばかり、20代女性との交際をイメージする。
ちょいモテを自負する、50代に多い傾向だ。 でも、ちょっと待って欲しい。 繰り返すが、いまどきの若い女性も、基本的には草食系で恋愛クール。
必ずしも、Sのような怒涛の大恋愛やリスキーな不倫関係を求めてはいない。 草食系に100%満足しているわけではないが、「でもまあ、肉食系よりはマシか」と自分に言い聞かせている。 疲れた夜にまでエッチを要求されるより、癒し系のエコ恋愛のほうが気楽でいいや、と割り切っているケースが多いのだ。
08〜09年にかけて、雑誌や新聞、テレビ番組はこぞってそんな特集を組んだ。 私も『W』や『N』といった女性誌をはじめ、三大新聞や数多くのテレビ番組で「草食系男子の攻略法」について取材を受けたが、私が見る限りでは近年、目立って肉食系女子が増えたとは思えない。 肉食系と呼ぶなら、むしろバブル期の女性のほう。

当時、なぜJ東京のお立ち台で、ワンレン・ボディコンの出で立ちで腰を振って踊っていたのか?それは、ひとえに「私とエッチしたいんじゃない?」と男性の鼻先に人参をチラつかせ、いわゆる「いい男(高級車に乗っている、奢ってくれるなど)」に声をかけてもらいたかったから。 成功すれば、女友達に「すごいでしょ」と自慢できたからだ。 かくいう私もその1人だったから、間違いない。 前出の恋愛エッセイストS氏も言う。
「バブル期の女性には、エレガントなツヤ感のようなものがあった。 彼女達の仕掛けに乗って、いわゆる『強いオス(男性)』同士がギラギラと火花を散らす。 当時のディスコやクラブは、オスにとって、恋をめぐるスポーティなケンカの場でもあったんです」
つまり便宜上、声をかけるのは男性、でもそう仕向けていたのは女性のほうだ。 それに比べれば、いまの若い女性はずっと品がいい。
露出度の高すぎるファッションは嫌うし、露骨にホラホラと餌をチラつかせることもしない。 せいぜい、合コンで突然「あー暑い」と上着を脱いで、ノースリーブの肩をスルリとさらけ出し、草食系男子をドキッとさせるぐらいのものだ。

バブル前後の時代、合コンや恋愛系イベント、クラブパーティなどによく顔を出していた、というS氏。 だがいまは、若い草食系男女のニーズを見てとって、エコな試みに着手している。 その1つが「LOHASU(ロハス)婚活塾」。

スローフードやスローライフ、ロハスなど「エコ」なテーマを扱う月刊誌『S』とのコラボイベントだ。 バブル期のディスコのようなギラギラした場所ではなく、アウトドアなど自然に親しみ戯れながら恋を探す「エコ」な出会いスタイルがコンセプト。

テーマは「地球にも自分にもやさしい恋をしよう」だ。 恋愛にも、ギラギラ感より「エコ」を求める、現代の20〜30代女性。 ただ、そんな若き女性達が、露骨に“暫定肉食”へと豹変する瞬間もある。 それが、結婚を切実に望むとき。 機転は30歳前後、いわゆるアラサーだ。 これまでアラサー女子から、何度相談されたか分からない。
「カレ(草食系)がなかなか結婚に踏み切ってくれない」「どうすれば、本気になってくれるか」と。

負け犬になりたくない、と豪語する彼女達にとって、30歳前後で結婚できるかどうかは死活問題。 にもかかわらず、何事にもスローペースな草食系は、なかなか結婚を決断したがらない。 やがて、アラサー女子のイライラは募る。 ウサギのようにほっこりしていた彼女達は突如、ライオンさながらの肉食系へと変身。 結婚に向けた「ウェディング・トラップ」を仕掛け始めるわけだ。 たとえば、男性に面と向かって最後通告を突きつける、といった具合。
「ねえ、私と本当に結婚する気あるの?…ないなら、もう別れる!」これを言うと、心優しい草食系男子は「ちょ、ちょっと待って」と大抵焦る。 でもデリケートな男性は、結婚後も「本当は俺、あのとき結婚したくなかったのに」「妻(カノジョ)に無理強いされた」と引きずっていることが多いから、手口としてはあまりお勧めしない。

M教授も言う。 「草食系の恋愛は、女性が思う以上にスローペースだ」と。
たとえ女性が「好き」と思い切って告白しても、その場では「あ、うん」としか言わずに去る。 女性はその夜、ケータイメールの1本でも入るかと待つが、いっこうにナシの礫。 「あーあ、脈がないのか」と落ち込み始めたその頃、草食系男子は1人で自室にこもり、微笑みながらブログにこう書き込んでいたりする、という。 「今日、Hさんから告白された。 恥ずかしかった、でも嬉しかった」なんとピュアな草食系!でも一刻も早く結婚したいと切羽詰まったアラサー女子には、じれったすぎる。

言葉は悪いが、「とりあえず結婚」。 彼女達がなりふり構わず結婚を迫るその様子は、周りから見ると“超肉食系の女子”に映るのだろう。 そんな行動は純粋な恋愛じゃない、との批判もある。

でも何度も言うように、旧来の結婚に“計算”がなかったかといえば、そうではない。 大恋愛が最大でも3年しかもたず、それ以降は“まったり恋愛”を育むしかないことも、すでに分かった。 ならば、こう考えればいい。 たとえ暫定肉食女子の勇み足によって、草食系男子の恋愛感情が冷めたとしても、大丈夫。 相手がイエラブ族の草食系なら、「彼のママ(母親)」にスイーツを持参するなどして「いいお嬢さんね」と気に入られれば、彼との結婚にも至りやすい。
結婚後にちょっとしたことでケンカしても、義母が一緒に、冷めかけた愛をとろ火にかけて温めてくれるだろう。 熱しやすく冷めやすい、激辛のバーニング恋愛とは違って、とろとろ煮込んだエコ恋愛は、何度でも温め直せる。 リサイクルできる、便利な愛のカタチなのだ。

男らしさと女らしさについて考えてみた。
バブル崩壊後の大人達の仕掛けも影響して、旧来の男らしさが失われつつある、とも書いた。 では昭和の時代は、日本の全男性が、男らしくありたいと願っていたのか?
言うまでもない、答えはNOだ。 「昔から男臭いのが嫌だった」と話すM教授のように、「なぜ男らしくなければダメなのか」と納得できなかった男性もいるはず。 声を大にして、それを言えなかっただけだろう。 F氏も言う。

「いまは男性も、堂々と『僕はソープよりエステに行きたい』と言える時代になった。 自由でいい時代になったと思う」と。 昭和の時代、男達は「男らしさ」に縛られ、ガマンしていたこともいくつもあっただろう。 受験世代の独身王子だってそうだ。
人前でかっこ悪い姿は見せるな、失敗するな、と言われて育った彼らは、消費の現場でも驚くほど慎重だ。 たとえば、ウイスキー。 ウイスキー市場は83年をピークに縮小を続け、いまやその出荷量はピーク時の5分の1にも満たない。 そこでSは05年以降、シングルモルトキャンペーンやハイボールの普及戦略、和食やスイーツとのコラボなど、女性を意識した普及策を講じてきた。

背景には次のような事情があったと、以前、同洋酒事業部担当者は教えてくれた。 「30代男性の多くは、憧れがあっても失敗を恐れて近づかない。 ウイスキーも、『知らない世界で、うろたえたり恥をかきたくない』との思いがあるのでしょう」私が取材しても、30〜40代の独身王子は決まってこう言う。 「ホテルのバーで、ウイスキーグラスを傾けてみたい」「夜景を見ながらウイスキーを飲みたい」と。 にもかかわらず、実行するかといえば決してそうではない。
足柳になっているのは、明らかに「人前で飲み方がよく分からない酒を飲んで、失敗したくない」との思い。 Sの担当者が言うとおりだ。 同じく04年、雑誌の世界でも、似た現象が露になっていた。

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